必要な技術の習得、会社制度の理解、業務の効率化、企業理念の共有、就労意欲の醸成など、教育研修にはさまざまな目的があります。
特に長期的に労働者を雇用するわが国の長期雇用システムにおいて、社員を育成するのは会社の責務であり、 会社にとって社員の教育研修は不可欠です。
したがって、会社は業務命令として労働者に対して教育訓練や研修の受講を命じることができます。
接客技法などを高める研修は、飲食店の従業員にとっては不可欠な研修といえます。
ですから、単に経験があるからという理由だけで研修を拒否することはできません。会社としては従業員に対して、研修の受講を命じることができ、それでも受講を拒んだ場合は譴責や減給程度の懲戒処分をなし得ます。(就業規則に懲戒処分の規定があることが前提)
ただし、どのような研修でも強制できるわけではありません。業務遂行と関係がないもの(思想教育など)、方法が相当性を欠く研修 (過度の肉体的苦痛を伴うもの)や法令に抵触するような研修(労働組合を排除する教育など)は、その受講を命じることはできません。
裁判所も、長期間労働者を賃金上不利益で不安定な地位に置くような教育は必要かつ相当なものといえず違法であるとしています(大阪高判平成21年 5月28日西日本森ノ宮電車区事件)。
その意味で、会社としては研修の意義・内容を労働者に十分理解させるとともに、もし参加できないという労働者がいたら、その理由を確認するようにしてください。
任意参加で実施される研修においても会社は参加者に対して賃金を支払う必要はあるでしょうか。
こうした研修において労働者の参加の自由が保障されているならば、会社の指揮 監督下にはないので労働時間には当たりません。
ただし、その資格やスキルが当該業務に不可欠だった場合や、形式上は自由参加 でも出席の点呼が取られたり成績に反映されるなどして実質的に参加が強制されているような場合は、事実上の義務付けられた研修といえます。
そのような場合は、研修時間が労働時間と評価される可能性があります。
本問では研修の内容や出席点呼の有無などは分かりませんが、もし事実上参加が 強制されているような事情があれば、会社は賃金を支払わなければならない可能性 があります。
こうした自由参加の研修と異なり、会社の業務命令として教育研修を命じる場合は 労働時間に当たるので、会社は賃金を支払う義務を負います。
ただし、これに支払われる給与は通常賃金よりも低い額を定めることも可能です。
行政通達でも「法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。
ただし、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合には その別に定められた賃金額で差し支えない」(昭23・11・4基発1592、昭63・3・14基 発 150)としています。
あくまで自主的な練習や勉強会の場合、会社の指揮監督下にあるとはいえないの で労働時間に当たりません。
したがって、会社は賃金を支払う義務を負いません。ただし、会社施設を利用して練習等をする場合、通常業務との区別が曖昧になりがちです。
ですから、事前に「会社設備使用許可申請書」を提出させるなどして、利用目的や時間を確認することが望ましいでしょう。